認知症を取り巻く、ぼくが、えらいなあ、と思った話
人間ってすごい。その1、の続き。
どう、その家をあとにしたか、覚えていない。
ともかく、時間は過ぎ、再び、訪問。
娘:「突然、叫ぶんです。」
「もう、やってられない!」
ぼく:「へ-」
(その返事に対する、ぼくへの娘のやや冷ややかな目を感じつつ。)
娘:「失禁するだけならまだしも。」
「手をおしりにもっていくんです」
「見てください、この壁。」
指で。汚れた壁を、さす。
「さっき、きれいにしたばっかなのに、もぉー。」
ほく:「・・・」
その日、どうやって話を切り上げたかを覚えていない。
気づくと、クリニックに戻っていた。
また別の日、訪問。
階段上る。
看護婦さん、ふつう。
ぼく、息あがる。
まあ、しょうがない。
ピンポーン!
玄関の奥のほうから、
娘:「すいませーん」
「空いてます。お入りくださあーい。」
部屋に入る。
すると、風呂場から、
「ぎゃー、やめてぇー」
「もぉー、やめてぇー」
同じセリフが、交互に音程を違えて。
そのうち、娘と全裸の母親が風呂場から出てくる。
娘:「せんせっ、お待たせして、すいません!」
訪問での、出会いのスタートは、毎回、本当に、輝かしい笑顔。
娘:「すぐに着替えますからっ」
たしかに、すぐきた。
また、娘の話。
「最近、本当に、叫ぶんです。もー、いやんなっちゃう。」
「こっちが叫びたい!」
最後は、「もう、いや。一緒に住みたくない!!!」
そして、決め台詞。
「せんせっ!!!、どうにかしてください!!!」
ぼく:「・・・」
あっ、
でも、ぼくも、毎回、固まってばかりいられない。
そうだ!
在宅で、認知症診療を、ぼくはしていた。
10数年前。まだ日本にわずかしかいない。
僕はプロだ。
Never give up!
こんなことではあきらめない。
暴れる人、殴る人。
たくさんみた。
ぼくも殴られた。
ぼくがかばう隙もなく、
看護師さんも、ときに、かけていた眼鏡をすっ飛ばされた。
ぼくの動きは、ひとにはスローに見えるかもしれない。
でも、同じデブでも、ぼくにはより大きな力が備わっている。
それを使って、機敏に動かそうとしているのだ。
それだけ、ぼくの手の速度は十分に速い。
しかし、相手の手の速度が速すぎるのだ。
分析しよう。
相手の手の質量は小さい。
ぼくのは大きい。デブだけに。
だから、同じ力で駆動したとしても、相手の手の加速度が大きくなる。
そのことによって単位時間当たりの移動距離が、
僕の手のそれよりも、相手のそれのほうが、
時間ごとに歴然と大きくなる。
従って、ぼくの手が看護師さんの顔をかばうよりも、
相手の手のほうがその顔に早く到達してしまうのである。
その看護師の名前は、本多さん、という。
こういうことは、地球上の物理の法則が支配する。
つまり、ぼくが体重を落とさない限り、物理条件が変化しないのだ。
逆に言えば、必要な条件が十分に重なれば、同じ事象が生起する。
殴られた看護師から、ぼくは、何度「人でなしっ」といわれたことか。
いまはのぞみメモリークリニックの看護師長である。
いまや僕をはじめ、だれもさからえない。
これも必然である。
あっ、もとい!
ぼくは、めげない。
もう、ここで、伝家の宝刀を抜くしかないのか。
また長くなりはじめたので、今回はここまで。
いま、だいたい半分くらい書いたかなあ?
つづき。次回。
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