ラジオ深夜便の文字起こし:聴き逃した放送を読み返そう「物忘れ外来って、どんなところ?」前編

木之下院長が出演しました(4月に放送)人気番組NHKラジオ深夜便の放送内容(前編)を文字起こしました。読める放送をご紹介します。ラジオの放送を聴き逃してしまった方や、もう一度確認したいという方には必見の内容です。さらに、文字起こしによって、聴覚障害のある方や日本語聞き取りが苦手な方にもアクセスしやすくなっています。ぜひ、お楽しみください。

認知症カフェ「物忘れ外来って、どんなところ?」前編

今週と来週は、物忘れ外来ってどんなところ?と題しまして、メモリークリニック委員長の木下徹さんにお話を伺います。65歳以上の認知症の人の数は、推計で今、全国におよそ600万人ということです。そして、2年後、認知症の人の数は、2025年にはさらに100万人増えて、高齢者の5人に1人が認知症になると言われています。今夜は、認知症が気になったときにかかる専門外来とはどんなところか、ラジオ深夜便の佐治真規子ディレクターが木下徹さんが院長を務めるクリニックを訪ねてお話を伺いました。

【出演者】

木之下:木之下徹さん(のぞみメモリークリニック院長)


佐治真規子ディレクター

木之下さん。今日はよろしくお願いいたします。

木之下院長

こんにちは。よろしくお願いいたします。

ーーー東京三鷹市にありますのぞみメモリークリニックに向かって歩いています。三鷹駅の南口からバスでおよそ8分ほどのところです。バス通り沿いに面したところに。こちらですね。ありました。

待合室・診察室の様子

ーーーこんにちは。院長の木下徹さんです。

木之下:こんにちは。よろしくお願いいたします。

ーーーよろしくお願いいたします。こちらの待合室ですけれども、テーブルと椅子のセットが7つくらい。ファミレスのような席もあったりして。サロンのような感じですね。

木之下:その通り。認知症の人は一人で最近来られる方も増えてきているし、あるいは家族と一緒に来られる方もいたり中には施設のスタッフと一緒に来られたりして、結構大勢で来られるかたもおいでで、お一人で待ってるという姿ではないんですね。で、時々診療以外でもこの地域のイベントとか、相談事とかもあったりして、いろんな用途で使わなければならないので、こんなふうなスタイルになったという次第ですね。

ーーーこちらが診察室ですね。

木之下:診察室は複数あるんですね。1、2、3。場合によっては6、7の番号のところを診察室に使っています。

ーーーソファーと椅子が3脚。椅子がいっぱいありますね。

木之下:結構な人数で来られる方もなるべく座っていただきたくて、こういう形にしてます。医者は、長椅子に座っていただく受信者とかあるいは家族とかを正面にするとパソコンを背にしないといけない。なものですから、スタッフがその間はカルテにその記録を代筆しているというスタイルで、しかも複数診察室があるからここで診察が医者が終われば、隣で待っていただいている方のところにいくと。車椅子の方も意外に多くて時間はゆっくり取っていただいた方がいいと思うから。医者が座って、こう呼ぶっていうスタイルじゃないんですね。

外見だけではわからない?

ーーー今、院長室に案内していただきました。木之下さん、物忘れ外来ですとかメモリークリニック行き慣れてないので、ちょっとハードルが高く感じてたんですけれども。実際きてみると、一般的な内科とか雰囲気っていうのは変わらない感じがしました。誰が患者なのかっていうのがわからなかったんですけれども、やっぱりそういうふうに認知症というのは外見だけではわからない。何でしょうか?

木之下:ですよね。一つね、エピソードがあります。去年かな。1年ぐらい前のことですけれども、70歳くらいの女性がおられて、車椅子にその方が乗せられて、夫らしき男性が車椅子を押して、診察室に入ってきました。当院では、初診時には、待っていただいている間にね、問診票、どうしてこちらに来られたんですか。どんな病気が今までありましたかとかいう記述をするんです。その方もぱっと出していただきまして、車椅子の方から出していただいたんです。綺麗な字で。男性は女性の後ろに立ってたわけです。まずは診察させていただきますねって相手に伝えました。女性の方がどうぞっておっしゃるから。僕自身はちょっと聴診器をですね、その女性の方に当てようとしたんです。するとですね、いきなりその女性から、いや私じゃありませんて。言われたんです。僕自身もちゃんと問診票見てよかったんですけどね、氏名をね。要は、車椅子に乗ってるとその方が認知症とかね。何か歳をとってる方が認知症とかね。いっさい、ないっていうことですね。認知症なのかもしれないって一人でおいでになられる方もおられるんですが、しばしば認知症らしいというふうに思うみんなの持っているイメージというのはおそらくないと思っています。

ーーーこれはもう本当にあの、木之下さんがこれまで何千人、患者さんを見られて感じているということですよね

木之下:そう、そう、そう。ある程度その、進行した方について言えば、そういう状況になるのは確かなわけです。ただ、今ほとんど、普通に検査をして認知症と分かるような程度の方々は、側から見て分からない。簡単な会話しているうちに分かる方も大勢おられるけど、それでも分からない方々もかなりいる。通常の検査をして。よく言われる長谷川式とかMMSEという簡易の検査があるんです。それはどこの病院でもやっていただいているとは思うんですが、それで正常範囲内、だから認知症ではない。わけでもないんですね。だから結構きちんとした検査をもとに判断をしないと、それを明確に線引きするというのは難しい。外見から判断は難しいということです。

どんな時に病院に行ったらいいのか。

ーーーそうすると、どういうことがあった時に認知症を疑ったらいいんでしょうか。

木之下:以前は家で唐突に怒り出すとか、家出た後帰ってこなくて警察に通報しなければいけなくなるとか、認知症に伴う困った問題で医療機関に行かれる方が多かったですね。ここ10年かここ5年くらいの間にこの様相が一変しまして、大多数ではないんですけど、お一人で来る方が増えてきました。

ーーーひとりでいらっしゃる方も多いんですね。

木之下:数割という・・・だけれども確実に増えています。もの忘れとか、物の名前が出てこないや、あるいは冷蔵庫を開けてそのときに何で開けたんだっけ、また閉じるような、日常によくあるようなそういう記憶に関係した現象。それでない違和感のある記憶障害とか。

ーーー例えばそれはどういう感じなんですか。

木之下:ある方なんですが誕生日会があって、それでビールの栓を抜こうとしたら、もう開いてたからその隣の人にありがとうって言った。そうするとその隣の人が、「え?」って言うんですよね。それがきっかけで受診した。

ーーー自分がビールの栓を開けたことをすっかり忘れてしまってた。覚えていない。

木之下:全く覚えていないっていうことなのだろうと思うんですね。で、そういう一部の記憶がスコンと抜け落ちる感覚っていうのは冷蔵庫を開けたら、何だっけって言って閉めるような、その記憶の障害とは違う異常な感覚。自分の中で、場合によっては恐怖を伴うような感覚。それがあると、それに呼応するような検査結果になっていくのかなというふうには思っています。だからといって確実に認知症であるという証拠でもないんですけどね。だからやっぱり検査を通じて、きちっと見る必要がある。心配だったら訪れればいいんだと思うんです。

ーーーハードルがちょっと高いイメージはあるんですけども、でも、もっと本当にちょっと気になったら気軽に来ていいところなんですね。

木之下:おそらくね、僕も歯医者さん行くのにあたって歯がすごい痛いとか、むちゃくちゃ状態が悪いということを自覚するまで歯医者さん行かなかったりするので、そういった意味でのハードルは、その医療機関、どの病気に対してもあると思うんですよね。人によりけりな部分はあるかもしれないけれども。いずれにせよちょっと心配、気になる。それは医療機関を訪れてチェックされたらいいんだというふうに思うんです。そうじゃなかったらそうでなくてよいし、あるいはそうであったら今から早めに準備できることがあるはずなので、そういうことを学んでいくという機会にもなります。

どういう検査があるのですか?

ーーー例えば、ちゃんと検査をすることが大事だということなんですけれども、検査ってどういう検査なんですか?

木之下:大きく言うと、その認知症の病院や専門のクリニックやることは大体決まってましてね。神経心理検査という質問による検査、画像検査、これは脳の形や出血とか脳梗塞をチェックするものですね。この今の2つは大切な検査。その他も大切なんだけど、どういうものがあるかというと、うつ病じゃないよねとか。

ーーーうつ病の可能性もあるってことですか?

木之下:そういうことも、きちんと、どこまで分離できるかという問題もあるけれども、一通り見るという上ではやった方がいいし、あとは血液の検査、体の診察、意外に大事なのが、今、薬を何を飲んでいるの?という薬手帳というのは最近よく持参されている方が多いので、その手帳があるとなおいいですね。抜け落ちがちなのは、市販薬。これも脳に影響があるものがかなり多くありますので、市販薬、常用しているものがあればこんなもの飲んでますよ、とかいうふうにして、脳と体と薬の情報は伝えた方がいいし、おそらく今申し上げた検査は専門の臨床の病院や診療所では通常行っていると思います。例えば、うちはMRIありますけれども、なくても紹介を受けると思います。

ーーーMRI、いわゆる脳の画像を撮るMRIというのはどういうふうにして撮るんですか?

木之下:実は二通りのパターンがあって、でっかいドーム、筒の中に入っていくという、よく映画とかドラマで見るようなやつと、オープン型といって、ドームじゃないんですよ、2枚の大きなハンバーガーみたいなパンの部分、中身がなくてここ空間があるわけですよ、そこに体入れていくわけ。頭を入れるので視野が全部機械の中に入っていっちゃうので、オープン型だととても開放感があって、ただ問題もあって、磁場がちょっと弱いんですね。磁場が高いと、結構詳しくまた見れていくというデメリット、メリットが双方にあります。どっちがいいの?というわけではないんです。ちなみにうちは、そういうドーム型のMRIを使っているので、やや詳しく見れると思っています。

ーーーそういうMRIを使って脳の画像を撮って、そしてどういう状況なのかというのを検査していくという、そういう一つの検査ですね。

木之下:認知症のために、診断のために当然MRIを撮るんだけど、その際に画像を見ていただくとすごくはっきり見れるんですけれども、脳梗塞の後はよく見れるんですね。脳梗塞の場所によっては明確な記憶障害が起こる場合もある。血管の障害によって認知機能が落ちるということは知られているんです。ただいろいろと脳梗塞があっても、脳梗塞らしい症状はない場合もある。まあまあ影響がなければいいじゃんかというと、血圧が高いとやっぱり脳梗塞になりやすい。今後どうしようかと。もし血圧がこのまま高ければ、もっと広がっていくわけです。大事な部分。手足の動きとかもあるからね。その認知機能以外でもリスクが高いだろうと考えられているんです。あるいはMRIの特徴として出血も結構見れるんですよ。認知症の、大きく言うとアルツハイマー型認知症って有名ですよね。もう一個有名な名前があって血管性認知症っていう言葉があるんです。それは血管障害に伴う認知機能の低下と定義されているから、このMRIでその部分を見ないとその診断がくだらないんですよ。こういう出血脳梗塞っていうのはMRI画像だとかなり詳しくわかるし、それに対して将来どういうふうになるかどうかということも予見できることもあるから。今後、例えばそうならないように予め策を打つ。薬を使うとかいうことが、可能となるでしょうね。そうすることによって血管性認知症は減らせるんだろうというふうに思うんです。

木之下:薬がありますし、まず日々の血圧、うちじゃよく手帳を渡して「見てくれない?」ってお願いをします。その結果、やっぱりそうだよねって、高いねっていうことがあって。逆に言うと若い頃からこのことを知っていれば、かなりいろんな障害を、将来起こり得る障害を抑えられると思いますね。いろんな健康教育の一環であったとしてもいいんじゃないの?と思うことでもあるんです。

ーーーじゃあやっぱり生活習慣病を予防するっていうことは大事なんですね。

木之下:その重みもあると思うんですね。何が影響を及ぼすから集中的に見ておきましょうよっ、ていう一つに血圧が上がっているのは大事なことかなと。今、血圧の薬ってすごく優れてて、分かれば先に手が打てる。血圧っていうのは重要な将来をある意味で占う指標であろうと。心配だったら撮ればいい。撮って見てみて脳梗塞、どうかなって。まだ大丈夫だって思えばいいし、あるいはやっぱりなと思うんだったらもう一回自分の血圧を見直すっていうのが医療ができる、結構大きな貢献だろうというふうに思うんです。

ーーーいろんなことが分かるんですね、画像から。

木之下:例えば、結構、海馬っていう場所、これが痩せてくると、これはね、だいたい共通して、誰もがっていうわけじゃないですよ。記憶がしづらくなるんですよね。

もの忘れではなくて、記憶のしづらさ

ーーー記憶がしづらくなる?

木之下:しづらい。海馬っていうのは記憶の玄関。認知症というのは忘れることっていう認識をみんな持ってるけど、もうちょっと正確に言うと記憶がしづらくなる。今、海馬が玄関でしょ。記憶っていうのは入れる持ってる出す。の玄関なわけです。入れる部分なわけですね。それが、入れる分量が減ってくるわけです。忘れるわけじゃないのよ。忘れたっていうのは入った記憶を引き出せないことだから。だから、みんなその海馬が変化して入れづらくなった人に向けてね、ちょいちょい、例えば娘さんが母親に対して、なんでお母さんそんなに忘れるの?どうして忘れるの?って言い続けたりする方も結構おられる。母親は何と返事するかというと私は忘れてないって言うんですよ。で、どっちが正しいかというと、母親が言ってる忘れてないという、つまり忘れた体験が感じれないわけ。みんな忘れるっていう体験のことを分かってはいるのに、この海馬の変化についての現象とのすり合わせができてない。記憶がしづらいっていうことと忘れるってことは意味が全く違う。

ーーーもの忘れではなくて・・・記憶がしづらいっていうこと。

木之下:もの忘れではないですよね。記憶がしづらいっていうこと。記憶がしづらい。だからまあまあ旗から見れば現象としてさっき言ったことをやってない。記憶がしづらかろうが忘れていようが同じ風にしか見えないですよ。だけど本人の中では全く違う現象なわけ。で、少なくとも今言ったように海馬が変化していて記憶しづらい場合の記憶障害って、あたかも側から見たら忘れているかのように捉えがちだけども本人に尋ねたら分かるんですよ。忘れてないって言うんですよ。忘れた体験中のあくまでも持っている記憶がタイミングよく引き出しづらい。例えばね、子供がいる人であったら宿題忘れたって聞かされてなかったら忘れたとは言わないよね。宿題があるんであればあらかじめ伝えてるはずなの。記憶してるはず。だから宿題忘れたと言ってるわけ。やってこなければ。ところがこの海馬が変化した場合はそうじゃないんだよね。情報が与えられてないのよ。と、等しいわけ。それに対して忘れてもない人に、毎日毎日なんでそうやって忘れるの?なんで忘れっぽいの?って言われ続けるとなぜか本人もだんだんそう。どうして私って忘れっぽいのかなって言い始めるんだけどその思いと現象が食い違ってるからだいたい人間関係も壊れるし自分もおかしくなる。結構ね、もの忘れっていう言葉を結構深刻な問題まで引き起こす用語だろうって、それは本人にとってかなり重大な心の障害を負わせるぐらいの辛い言葉になってるっていうことがわかるでしょ。

認知症と診断されたら

ーーーもし自分が認知症だって言われたときどういう風に受け止めればいいのかなって。

木之下:絶望を感じる。そうではないよという認知症と診断された途端に新たな世界に旅立つわけでもないんですわ。ただ、不自由さは、増えるから。ある程度医療はそういった、「どこが不自由って言われると例えば記憶がしづらいよ」っていうことをきちっと伝えることができる。海馬が痩せてる記憶がしづらいことがわかる。それは本人に伝えたらいい。僕はいいと思うから。僕はやっぱりこういう状態もちゃんと本人に見せて、あなた今こういう状況ですよと。だから若い頃に比べると相当記憶がしづらくなってるわけで、忘れるわけじゃないですよとかいう説明はするんですけどね。その上でその人の今後、これからを生きていく上で、そういう状態であることを知るか知らないかでまた生活の設計というか自分の中の方向性も変化しちゃうからさ。だったら、知って自分の等身大の生活で豊かになっていければいいんじゃないのっていうふうに思うわけ。自分のことを自分で知ってたらいいよっ、ていうのは別に認知症に限らないよね。これから事業やる人もそうだろうしこれから就職しよう、あるいは大学に入ろうとか様々な自分を決めるときに、ある程度自分のことを知っておかないとさ、例えば大学受験でも高望みしても落ちるしとかね、社会との折り合いをつけるには自分のことを知ってると、その分だけ楽かなと思う。こと認知症については僕自身はね、やっぱり自分自身が知った上で、これからどういうふうに自分の生活を組み立てていくか、どういうふうな思いで生きていこうかっていう、そういう考える糧にした方がいいようにと僕は思って、来られる人であればきちんと説明をしていきたいなと願ってる。ただ家族の方からダメ出しされるときがある。診断、もししたとしても診断名は言わないでくださいって言われる。うーん、そうかって思って。うーん、ちょっと苦しいけどしょうがないよね。

ーーー木之下さんのお話は次回後編も続きます。ありがとうございました。

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