#02 ループ

#02 ループ

何度も同じことを聞かれて困っていると家族からの相談は多い。
「さっきも言ったじゃない」「言ってないよ」
ちょっとした悩みであるようだけど、これが積もり積もるとお互い大きなストレスやトラブルになる。

先日やってきたご夫婦。
「少し前に言ったこともすぐに忘れるんです。何度も同じことを聞かれるから本当に疲れます」と、妻。
その隣でうつむている夫。
「先生、どうしたらいいでしょう?」
このようなとき先生は、医学的根拠を踏まえ、具体的にわかりやすく家族や本人に伝えている。
時には最後に本人の気持ちを代弁する言葉も添えて。
この日もうつむくお父さんを察して代弁のひとことをトッピング。
「忘れたわけではないんです。だから本人からすれば、いわれないとばっちりなんです」
そのひとことを聞いたお父さん。
顔を上げてすがるような目で先生を見つめ、
「よくぞ先生、言ってくれました!そうなんです」と、膝を打った。

認知症状のある人は、気持ちを言葉でうまく伝えることができないことがある。
なので先生は、受診者の代弁者としての顔も持つ。
さらにこれが夫婦円満のきっかけにもなれば、仲人役も果たしたこととなる。多種多様。
けど、毎回、代弁者や仲人に取り持ってもらう訳にも行かない。
そんな日々のちょっとしたストレスを解決するにはどうしたらいいのだろう。
その場の空気が少しでも変えられたらいいんじゃないかと考えていたら、ラジオから面白いアイデアが聞こえてきた。

ゆるきゃらの生みの親でもありイラストレーターのみうらじゅんさんが、
「さっきも話したことをまた話している人に対して、それを指摘するのは忍びないので、さっきも言っていたと言う気持ちを込めて『ループ・オン・ロッケンロール』って。キープ・オン・ロッケンロール的なノリで言う。ああ、この人は話がループしているだと場が和む」と話していた。

「お父さん、ループ・オン・ロッケンロールしているよ」とか、
「その話、3日目のループ・オン・ロッケンロールね」とか。
場の空気が和んで、気持ちも明るくなりそう。私は膝を打った。
冨田しのぶ 
のぞみメモリークリニック医療事務スタッフ/映像クリエーター

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