#13 黄昏どき

#13 黄昏どき


とつとつと心のうちを語るご老人。
「なんとも言えない侘しさです。このまま生きていてもしょうがない」
ご老人の話を聞いている彼。
孫くらい年の離れた彼は、ご老人の話にじっと耳を傾けている。
「毎日やることもない。友達もみんな死んでしまった。孤独です。
もう十分生きた。思い残すことはありません」と老人は言った。
彼は言う。
「人生をまっとうしておられる。私からすると羨ましい悩みですが、
ご本人としてはお辛いでしょうね」。

とある日。診察室の風景。
このようになんとも言えない孤独におそわれ、
寂しさ訴える、主に90歳を超える方に多いと言う。
そんな話を先生とご本人とが話をしている。

「先生はお若いのに話が分かってらっしゃる。
あなたとお話しできてよかった」。
最後にご本人は言った。
なんとも言えない侘しさから解放されることはないかもしれない。
けどこうして気持ちを共有できる時間を過ごして、
ここへ来てよかったと感じてくれただろう。
ご老人が診察室を後にする表情を見て思った。

ここは黄昏どきの縁側か?
終わりに近づいた人生の時期を「黄昏時」と表現することがある。
黄昏時とは、暗くなった夕暮れ時には相手の顔が見分けにくくなり、
「だれそ彼?(あなたは誰ですか?)」と問いかける時間帯のこと。
ご老人にとって黄昏どきにうっすら見えた彼の姿は、
先生だったに違いない。

ごくまれに、診察室は黄昏どきの縁側になる。

冨田しのぶ

Shinobu Tomita

のぞみメモリークリニック医療事務スタッフ/映像クリエーター

映像クリエーターとして企画、撮影、編集を手掛ける。動画広告、e-Learningコンテンツ、映画予告編など。
介護ヘルパーを経て、現在はのぞみメモリークリニックにて医療事務スタッフとして従事。
また、2021年に三鷹市地域福祉ファシリテーター養成講座を受講。その後、地域福祉についての情報を発信する情報メディア「とみぞうさんと地域福祉未来研究所」立ち上げ。メールマガジンやYouTube、Instagramで地域福祉の未来につながるような情報を発信。
メールマガジンに掲載したインタビューをまとめた冊子。
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